製造業ブログ

公開日:2025.12.31

経営哲学をAIの「OS」に実装する — NotebookLMで実現した、技術と理念の化学反応〜地方の印刷会社の発見〜

AI時代における「言葉の重み」と経営の羅針盤

私たちフジイ印刷は、創業以来、活版印刷やオフセット印刷といった「圧力をかけて紙にインクを刻む」技術を通じて、言葉や情報を形にしてきました。一方で、製造業DXのテストプレイヤーとしてクラウドERP「PSI VISION」の開発や、逆に非常時のアナログツールの大切さを学ぶBCP研修ゲーム「町工場サバイバル」のような新しいソリューションの提供にも挑戦しています。

「アナログな感性」と「デジタルの論理」。一見相反するこの二つをどう統合し、経営の推進力に変えていくか。これは現代の私たちが直面している課題です。

昨今、生成AIの進化は目覚ましいものがあります。しかし、AIは万能の魔法の杖ではありません。使う側の「問い(プロンプト)」の質が、そのまま出力の質を左右します。では、会社としてAIを活用する際、最も重要な「問いの基準」は何でしょうか?

私はそれを「経営哲学」だと結論づけました。


今回は、Googleの新しいAIツール「NotebookLM」を活用し、偉大な経営者たち残した数々の言葉を自社の経営理念行動規範として体系化、さらにはそれをAIの「哲学的規範(システムプロンプト)」として実装した取り組みについて、そのプロセスと興味深い成果を共有したいと思います。これは単なる効率化の話ではなく、AIをパートナーとして「良い経営と良い仕事」を実現するための、私たちの新しい挑戦の記録です。

NotebookLMとの出会いと「哲学のデジタル化」

1-1. 生成AIの課題と「ハルシネーション」の壁

生成AIを業務に導入しようとした際、多くの企業が直面するのが「情報の信頼性」と「文脈の欠如」です。一般的なLLM(大規模言語モデル)は、インターネット上の膨大なデータを学習していますが、それゆえに回答が一般的すぎたり、時には事実と異なる「ハルシネーション(幻覚)」を起こしたりします。

特に経営判断や戦略策定といったコア業務において、あやふやな回答は許されません。私たちが必要としていたのは、Web上のどこかにある誰かの言葉ではなく、「フジイ印刷としての判断基準」に基づいた回答でした。


1-2. ソースを限定できるNotebookLMの強み

そこで注目したのが「NotebookLM」です。このツールの最大の特徴は、ユーザーがアップロードした資料(PDFやテキストなど)のみをソース(情報源)として回答を生成できる点にあります。いわゆるRAG(検索拡張生成)の技術が、誰でも手軽に使える形になったものです。

私はここで、ある仮説を立てました。

「偉大な経営者たちが残した数々の言葉や、自社が大切にしてきた理念をここに読み込ませれば、AIは『優れた経営者の思考回路』を獲得できるのではないか?」


1-3. 経営哲学をAIに宿す

早速、私が長年指針としてきた経営者たちの哲学が詰まった刊行物からの抜き書き、それらからの感想文やメモをデジタルデータ化し、NotebookLMに読み込ませました。

「松下幸之助ならどう考えるか?」「稲盛和夫ならこの状況をどう定義するか?」

というこれまで私の頭の中にしかなかった「師」たちの教えを、AIという外部脳にインプットする作業です。

そして、それらを単に要約させるのではなく、「フジイ印刷の新しい経営理念・行動規範」として再構成(シンセサイズ)するように指示を出しました。

結果、出力されたのは驚くほど整合性の取れた、かつ重厚なテキストでした。AIは膨大なテキストの中から、本質的な人として何が正しいかという哲学に根差した「商売の真理」や「組織の原則」を抽出し、それを現代の、そして当社の文脈に合わせて構造化してくれたのです。


第2章:哲学的規範を「システムプロンプト」にする

2-1. AIに「人格」と「判断基準」を与える

作成された「新たな行動規範」は、読み物として素晴らしいだけではありません。私はこれを、生成AIを使用する際の「哲学的規範」、いわゆるシステムプロンプトとして定義しました。

通常、AIへの指示は「この文章を要約して」「このコードを書いて」といった機能的なものが主です。しかし、私はその前提として、必ずこの「哲学的規範」を読み込ませることにしました。

「あなたは以下の経営哲学を深く理解し、その倫理観と戦略的思考に基づいて回答するAIエージェントです」という定義づけです。これにより、AIは単なる「計算機」から、当社の理念を共有する「参謀」へと進化しました。


2-2. 哲学はなぜAIと相性が良いのか

ここで一つの気づきがありました。哲学や理念といった概念は、生成AIと非常に相性が良いのです。

哲学的な問いや命題には、古今東西、膨大な「教師データ」が存在します。時代が変わっても変わらない人間の本質、商売の原則。これらはある意味で、一つの絶対的な概念に収斂していく性質を持っています。AIは確率論的に「最も確からしい答え」を導き出す仕組みですが、哲学のような普遍的なテーマにおいては、その「確からしさ」が「真理」に近づくのです。

曖昧な指示には曖昧に返すAIも、強固な哲学的バックボーンを与えることで、その回答の軸がぶれなくなります。これは、確固たる信念を持つ人間が迷いなく決断できるのと似ています。


一次情報との掛け合わせが生んだ「インサイト」

3-1. 自社技術情報の再発見

「哲学的規範」を持ったAIに対し、次に私が与えたのは「自社の技術情報」です。

保有している活版印刷機のスペック、開発したERPの仕様書、過去の製品カタログ、顧客からのフィードバックデータ。これら、当社固有の「一次情報」を掛け合わせました。

すると、予期せぬ化学反応が起きました。AIが、私たちの製品や技術に対して、これまで社内の人間も気づかなかったような「意味付け」や「価値の再定義」を行いはじめたのです。


3-2. スペックではなく「価値」を語るAI

例えば、古い印刷機のスペック情報を読み込ませたときは、通常のAIなら「この機械は1時間に何枚印刷でき、最大用紙サイズは〇〇です」という物理的な説明になります。しかし、経営哲学をインストールされたAIのふるまいは異なりました。

「この機械が生み出す高圧力の凹凸は、情報のデジタル化が進む現代において、情報の『身体性』や『所有感』を回復させる戦略的ツールになり得ます。これは単なる印刷ではなく、顧客のブランド体験を物理的に刻印するブランディング・ツールです」

このように、技術的なスペック(機能)を、経営哲学のフィルターを通すことで、顧客への提供価値(ベネフィット)へと昇華させて解説したのです。


3-3. インサイトの獲得と戦略的一貫性

これは私たちにとって大きなインサイトでした。

「私たちは印刷物を売っているのではない。情報の重みや、ブランドの信頼を売っているのだ」という、頭では分かっていたつもりでも言語化できていなかった価値が、AIによって明文化されたのです。

自社製品の再発見です。

技術情報(What)と経営哲学(Why)がAIの中で結びつくことで、戦略的実践(How)が一貫したものになりました。

「なぜこの製品を作るのか」「どのように売るべきか」という戦略が、経営理念から一直線に繋がったロジックとして出力されるようになったのです。これにより、製品開発の方向性やマーケティングのメッセージが、より力強く、説得力のあるものへと変化しました。

組織への展開 — 全従業員との共有に向けて

4-1. 暗黙知を形式知へ、そして共有知へ

経営者の悩みの一つに、理念の浸透があります。朝礼で唱和しても、日々の現場の判断にまでその理念が息づいているかというと、難しいのが現実です。

しかし、この「哲学的規範を実装したAI」は、その壁を突破する強力なツールになり得ます。

今後は、このAI環境を全従業員が使えるように整備していく予定です。


例えば、営業担当者が顧客への提案メールに悩んだとき、このAIに相談すれば、「目先の利益よりも信頼を優先する」という当社の理念に即した、誠実な文面を提案してくれるでしょう。

製造現場のリーダーが工程管理で迷ったとき、「品質と効率のバランス」を哲学に基づいて判断する助言をくれるでしょう。


4-2. 教育ツールとしての可能性

これは究極のOJT(On-the-Job Training)にもなります。AIとの対話を通じて、従業員は自然と「当社の経営哲学ならどう考えるか」をシミュレーションすることになります。

「社長ならこう言うだろうな(このときの社長自体がAIと経営哲学を共有している)」という感覚がAIを介して可視化され、共有される。これは組織のベクトルを合わせる上で、かつてないほど強力な武器になります。


4-3. 良い経営と良い仕事をする会社へ

技術は常に進化しますが、それを扱う人間の「心」や「規範」が追いついていなければ、技術は凶器にもなり得ます。特に生成AIのような強力なパワーを持つ技術こそ、強固な哲学という「ブレーキ」と「ハンドル」が必要です。

NotebookLMを使って構築したこのシステムは、私たちフジイ印刷にとって、単なる業務効率化ツールではありません。それは、私たちが大切にしてきた「人として何が正しいか」という哲学や「商いの心」をデジタル空間に保存し、未来へ継承していくための「デジタルな社是」であり、日々の判断を支える「羅針盤」なのです。


瀬戸内から世界へ、「哲学×DX」の発信

私たちは岡山県瀬戸内市牛窓町の印刷会社です。

美しい海とオリーブの丘に囲まれたこの地で、私たちは「活版印刷」という最も古い情報技術と、「生成AI」という最も新しい情報技術を融合させようとしています。

「温故知新」という言葉があります。私たちは、偉大な先人たちの経営哲学をAIに学ばせることで、自社の技術や製品の新しい価値を発見しました。


哲学は抽象的なものではなく、実利を生む具体的な戦略ツールです。

そしてAIは、冷徹な計算機ではなく、私たちの哲学を映し出し、増幅してくれる鏡です。


フジイ印刷はこれからも、この「哲学×DX」の実践を通じて、お客様により高い価値(時間付加価値)を提供し続けるとともに、従業員一人ひとりが誇りを持って「良い仕事」ができる会社へと成長させていきたいと考えています。


もし、自社の経営理念の浸透や、DXの方向性にお悩みの経営者様がいらっしゃれば、ぜひ一度、私たちの工場へお越しください。

アナログなインクの印刷とクラウドERPによるDXが混ざり合うこの場所で、未来の「モノづくり」と「コトづくり」について語り合えたなら、これほど心躍る縁はありません。

今回notebookLMで作成した経営理念行動規範の抜粋版ポスターはこちら。本文に興味がある方は下記リンク先のフォームからお問い合わせください。


【会社案内・お問い合わせ】

フジイ印刷株式会社

私たちは、岡山県瀬戸内市を拠点とする、創業からの実績を持つ総合印刷会社です。「全従業員の物心両面の幸福」と「利他の心」を経営理念に掲げ、単なる印刷物の製造にとどまらず、お客様の業務効率化と発展に貢献するソリューションを提案しています。 事務用伝票、封筒、カタログから、現場DXを支援するバリアブル印刷まで、企業の「伝えたい」「残したい」を形にします。

お問い合わせ・お見積り

 公式サイト内の「お問い合わせフォーム」よりお気軽にご連絡ください。 

全従業員の幸福を追求するクラウドERP「PSI VISION(サイビジョン)」

製品サイト:https://preview.studio.site/live/Z9qpxve4qP/product/detail/psivision

この記事の監修者

藤井 聡|代表取締役

業務印刷の未来を探求し、中小製造業向けのALL IN ONEクラウドERPやAIO向けLP制作ツールをリリース。2019年に社内の事務職ゼロを達成し、クラウド実践大賞岡山大会で発表。京セラの稲盛和夫氏とゲーム作家の米光一成氏の手法を取り入れた会社の仕組みづくりを推進中。

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